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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
そんな事で割によく覚えているのです」
聞いているうちに石子刑事の頭に被さっていた暗い影は朝霧のように次第に晴れて行った。彼の心配していた年の点もどうやら説明のつくらしい所がある。お貞の屍体に相違ないと云う考えが確乎として来た。
翌朝神楽坂署の前には一台の大型自動車が勇ましくエンジンの響きを立てゝいた。車には大島司法主任、石子、渡辺両刑事以下四、五人の刑事と制服の巡査、案内役の人夫などがいずれも顔面を緊張させて乗込んでいた。彼等は大崎の墓地に死後半年に発見せられ、埋葬後三年を経過した他殺の嫌疑ある死体を発掘に向うのだった。
やがて自動車は爆音けたゝましく疾駆し始めた。
大空はドンヨリ曇って、その下を鼠色の怪しげな形をした雲が不気味な生物のように、伸びたり縮んだりしながら、東北の風に吹き捲くられて西南へ西南へと流れて行った。
広々とした稍小高い丘に大小取交ぜ数百基の墓石が不規則に押並んで、その間に梵字を書いた卒塔婆の風雨に打たれて黒ずんだのや未だ木の香の新しいのなどが、半破れた白張の提灯などと共に入交っていた。墓石の周囲の赤黒い土は未だ去りやらぬ余寒の激しさに醜く脹れ上っていた。