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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
浅田は表面恐れ入ったように見せかけてはいるが、隙を見せたら、どんな事を企てるか分らないのである。
こうした渡辺刑事の並々ならぬ苦心は三日三晩の間空しく続いた。一口に三日三晩と云うけれども、こんな苦しい緊張を三日三晩も続けると云う事は尋常な者では出来る事ではない。流石の渡辺刑事もゲッソリと身体が痩せて、針の落ちた音にさえ飛上る程、神経が鋭く尖った。
支倉は早くも様子を悟ったのだろうか。浅田が何か気のつかぬ方法で知らしたのではなかろうか。支倉の嘲笑状は相変らず毎日のように警察に飛び込んで来る所を見ると、高飛をしたとは思われない。尤も一度愈※(二の字点、1-2-22)高飛をするらしい手紙を寄越した事があったので、各停車場に手配をした事があったが、それは全く警察を愚弄する為であった事が間もなく判明した。彼には高飛をするような気はないらしいのである。
彼は只巧に逃げ廻りながら、警察を馬鹿にする事に無限の興味を持っているらしい。無論自分の犯した罪が続々暴露して、恐ろしい罪名で追跡されている事などは思っていないらしい。もし彼がそんな事に気づいていれば、毎日のように警察に愚弄状を送ったり、大胆不敵にも北紺屋署に出頭して市電対手に損害賠償を要求しようとしたりしないで、一時も早く高飛すべきである。