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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
待ちに待った日は来た。今日こそは午前十時に坂本公園に待ち構えている刑事達によって、支倉は逮捕せられるのである。万一に備える為に未だ浅田方の警戒をゆるめないで、油断なく眼を配っていた渡辺刑事は今朝から何回となく時計を眺めながら、十時の近づくのをソワ/\として待っていた。
時計の針が九時少し過ぎた頃、一通の郵便が拠り込まれた。渡辺刑事が急いで取上げて見ると、それは肉太に松下一郎と書かれた支倉からの手紙だった。
ドキッとした渡辺は浅田を呼ぶ暇もなく無意識に封を切って、二、三行を一時に読み下すような勢いで文面を見た。
手紙には依頼の品を日本橋の坂本にどうとかすると云う風に書いてあったが、坂本と云う人は知らない人で不安心だから、浅田自身で明後日午前十時に深川八幡の境内に持って来て貰いたいと書いてあった。
渡辺刑事は茫然として手紙を落として終った。
何と云う抜目のない用心深い男だろう! 彼は渡辺刑事があれ程苦心して疑念を起させないように浅田に書かした手紙さえも、頭から信用して終う事をしなかったのだ。両国の坂本公園のような所へ誘き出そうとした事に不安を感じたと云えば感じたかも知れないが、要するに彼は念には念を入れると云う用心から、もう一度浅田に手紙を送ったのだ。