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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
大正六年と云えば正に今より十年前であるが、この時代に於て、アルセーヌルパンの小説物語をそのまゝ地で行くような大胆不敵にして、かくまで奸智に長けた曲者が実在していようとは、種々の空想を逞しゅうして探偵小説を書く私でさえが夢想だにしなかった所である。具に今日までの物語を読まれた諸君は今更ながら書き立てなくても、彼がいかなる権謀を逞しゅうしたか十分お分りの筈である。
彼の受縛を境としてこの物語の前篇は尽きる。これより後に現われる訊問より断罪に至る中篇は、後篇に当る彼の執念の呪と相俟って、更に奇々怪々たる事実を諸君の眼前に展開するのである。
訊問
捕えられた支倉の奇々怪々な言行を述べるのに先立って、鳥渡断って置きたい事がある。之は読者諸君に取っては退屈な事で御迷惑であるかも知れない。然し之は是非述べて置かないと後の事に重大な関係があるので、一回だけ辛抱をして貰いたいと思う。
それは支倉の容貌の事であるが、彼は好く云えば魁偉、悪く云えば醜悪と云うか、兇悪と云うか、兎に角余程の悪相であったらしい。背丈はさして高くなく、肉付も普通で所謂中肉中背丈だが、色飽まで黒く、それに一際目立つクッキリとした太い眉、眼は大きくギロリ/\と動く物凄さ。