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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
然し支倉は容易に自白しようとはしなかった。
午後の日は次第に傾いて漸く薄暮に及んだが、訊問は未だ止まなかった。刑事部屋の堅く閉ざされた扉を通じて、時々刑事の怒号する声が外に洩れ聞えた。
日もトップリと暮れはてた時分刑事部屋の扉が開いて、蒼白い顔をした支倉がぬっと現われた。背後には油断なく両刑事が従っている。彼は便所へ行く事を許されたのだった。
この時の支倉の気持はどうであったろうか。
彼は今恐ろしい犯罪の嫌疑を受けて、日夜責め問われている。彼の行動は充分そんな嫌疑を蒙るに足るのだ。
既に読者諸君も御存じの通り、数々の証拠が挙っている。が、然しその証拠は嫌疑を深めるだけの力はあるが、動かすべからざる確定的のものはないと云って好い。それだからどうしても彼を自白させなければならない。所が、彼は証拠の薄弱なのを知ってか、容易に口を開かない。之まで名だゝる強か者を子供のように扱った警吏達も、すっかり手こずって終った。今は乃木将軍が旅順を攻め落した時のように遮二無二、口をこじ開けてゞも白状させようとしているのだ。流石の支倉もヘト/\になりながら便所に這入った。