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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

医師は一応診察した後、以前銅貨を呑んだ時のように、大した障りのない事を断言した。

こんな事がいきり立っている刑事に素直に受入れられる筈がない。

「畜生」

渡辺刑事は叫んだ。

「野郎又狂言自殺をやりやがったなっ」

「硝子なんか呑んだって死ねるものかい」

石子刑事も口惜しそうに云った。

「そんな詰らない真似をして取調を遅らそうとしやがる。誰がなんと云ったって、きゃつが放火や殺人罪を犯している事は確実なんだ。白状させずに置くものか」

けれども二人はその日は訊問を続ける事が出来なかった。支倉も弱っていたし、それにその夜大島司法主任がとう/\死んで終ったのだった。

司法主任の死は支倉事件の為のみではなかったかも知れない。然しこの事件が重大な原因をなしていた事は確である。そして支倉の訊問中主任が死んだと云う事は署全体にとって大きな激動であった。

大島主任に代って任命された人は佐藤と云う警部補であった。この人は諄々として温情を以て説くと云う人だった。それにこの人は始めの経緯を知らないから、支倉に対して先入的偏見乃至反感を持っていない。全く白紙の状態で彼に臨む事が出来た。