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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
こう云う風に予審判事に対しても彼はスラ/\と犯罪事実を自白したのだった。
古我予審判事は直に拘留状を発した。
判事は徐に放火殺人以下八つの罪名に於て被告支倉喜平を東京監獄に拘留すと書いて最後に署名をした。時に午後九時を過ぎる事二十分で、支倉が東京監獄に這入ったのが同日午後十時だった。
東京地方裁判所予審判事古我清氏は自宅の書斎で牛込神楽坂署から送付して来た支倉喜平に関する調書を片ッ端から熱心に調ていた。
調書は調べれば調べる程、一種の怪味に充ち満ちていた。喜平が聖書の窃盗をなした事や、貞と云う年若き女を犯して之に淋疾を感染さした事実等は疑う余地がないが、他の重大なる犯罪放火及殺人に至っては、彼は立派に自白を遂げているけれども、尚一抹の暗雲が低迷している所がある。もし彼の自白する所が尽く真実であるとすると、実に彼は古今稀に見る兇賊である。然しながら未だ軽々に之を断ずる事は出来ない。余程慎重なる審理を要する。之が古我氏の第一の意見であった。喜平は前科四犯を重ねている。
法官は被告人を取扱うに当って、前科の有無と云う事には出来るだけ拘泥しない事が必要であるし、殊に支倉は今はキリスト教に帰依し、一部からは牧師と見られている程、宗教に身を投じているのであるから、出来るだけ彼の人格を認めねばならぬ。