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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

と云って快く支倉と一緒に写っている写真を貸して呉れた。

石子は帰署して手に入れた写真を大島司法主任に差出すと、牛込細工町の自宅に帰った。

妻のきみ子はいそ/\と彼を迎えたが、やがて一通の封筒を差出した。書留速達で来たものだった。取上げて見ると、あゝ、又しても支倉からの手紙だった。彼は思わず力一杯畳の上に叩きつけた。妻は眼を丸くした。

内容は相も変らず嘲笑に充ちて居た。近いうちにお宅へお礼に出るなどと書いてあった。それにしても彼はどうして自分の宅の番地を知ったのであろうか。

呆気にとられている妻に手短に事情を話した末、石子は云った。

「こんな奴の事だから事によったら本当に俺の宅に来るかも知れない。無論俺の留守を覗って来るのだ」

「まあ嫌だ」

妻は顔をしかめた。

「馬鹿! 刑事の女房がそんな事でどうするのだ」

彼は苦笑いしながら、

「もし来たら、何食わぬ顔をして丁寧にもてなして上へ上げて、お前はお茶菓子でも買いに行くような風をして交番へ行くんだ。交番の方はよく頼んで置くから分ったかい」

「えゝ、もし来たらそうしますわ」

「よしじゃ俺は一寸交番へ行って来る。きゃつ事によったら、こゝの近所をうろついたかも知れない」