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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「君、こう云う奴が僕の事を何か聞かなかったかい」

交番に行くと石子刑事は、そこにいた顔馴染の巡査に支倉の容貌を委しく話した。

「えゝ、来ましたよ。朝でした。丁度私の番の時です。そいつに違いないのです」

巡査は答えた。

彼の話によると、今朝方支倉はブラリとこの交番を訪ねて、繃帯をした腕を示しながら、

「私は此間電車から落ちてこの通り怪我をしたのですが、その節傍に居られた石子刑事さんに大へん御厄介になったのです。是非一度お訪ねしてお礼がしたいのですが、あの方のお住居は、どちらでしょうか」

と聞いたのだった。

で、巡査は委しく石子刑事の宅を教えたのである。

「繃帯をしていたって?」

石子は聞き咎めた。

「えゝ」

「怪我をしたようだったかい」

「そうですね、どうもそうらしかったですよ」

どうして怪我をしたのか知ら。二階から飛降りた時かしら。

石子は鳥渡考えて見たが、もとより分る筈がなかった。

「ではね、君、もし今度この辺をうろついていたら、早速捕まえて呉れ給え」

石子はそう云い置いて家に帰った。

翌日の午後、石子刑事が署に出ると、又しても書留速達の分厚い手紙を受取った。