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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
会見の結果を心配して、聞きに出て来た彼の妻にも一言噛んで吐き出すように、
「何でもないさ」
と云っただけだった。
流石の神戸牧師もこの手紙を貸し与えた為に、反って非常な迷惑を蒙る事になろうとは気付かないのだった。
こゝで話は支倉の事に移る。
支倉は第一審で死刑の宣告を受けて以来、彼の念とする所はいかにして死の手より逃れるかと云う事だった。その為に彼は弁護士初め会う人毎に冤罪を訴えた。裁判長には書面を以て、神楽坂署に於ける拷問によって虚偽の自白を余儀なくせられたことを繰り返し訴えた。一方神楽坂署の庄司署長以下刑事達に対し、物凄い脅迫の手紙を毎日のように送った。それのみで倦き足りないで、各方面に向けて庄司署長の悪声を放った。監督官庁へは毎日庄司署長を免職させろと云うはがきが飛び込んだ。
当時の支倉の頭は針のように尖って、只いかにして罪を逃れんかと云う事に集中していた。元より愚物所ではない人並勝れて智恵の働く彼の事である。深夜人の寝静まった監房に輾転反側しながら、頭は益※(二の字点、1-2-22)冴えかえり、種々画策する所があったに相違ない。
彼は古い記憶を新たにして、あれこれと反証の材料を脳裡に探るうちに、ふと往時神戸牧師に宛てた手紙を思い出した。