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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「来たのは大崎の方からでした。行ったのはあっちです」

女中は市内の方を指し示した。

「仕方がない、大崎方面の運送屋を片端から調べよう。未だ帰っていないかも知れないが」

石子は渡辺刑事の方を向いて云った。

二人は別れ/\に運送店を物色し始めた。

大崎駅附近を受持った石子刑事は、取り敢ず一軒の大きな運送店に這入った。

「僕はこう云うものですがね」

石子は肩書つきの名刺を出しながら、

「今日三光町の方へ車を出さなかったかね」

せっせと荷造りをしながらわい/\騒いでいた人夫達はピタリと話を止めると、ジロ/\と石子を眺めた。

「宅じゃありませんね」

やがて中の一人がブッキラ棒に答えた。

「この辺の運送店で背の低い、ずんぐり肥えた人のいる所はありませんか」

「知りませんね」

対手は相変らず素気なく答えた。人夫達は荷造りの手を止めると、思い/\に腰を下して、外方を向きながら煙草を吸い出した。

「分らないかね」

石子は落胆したように、

「困ったなあ、少し調べたい事があるんだがね。まあ一服さして貰おうか」

独言のように云いながら、彼は土間の一隅に腰を下した。人夫達は、敵意のある眼で彼を盗み見た。