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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

岸本は首を振った。

「私は一度見た事があるのよ。えーと一年二年、そう足かけ三年になるわ。この先の大崎のね、そら池田ヶ原って、今は大分家が建ったけれども、あの原の真ん中に古井戸があってね、確六月か七月だったと思う。身投が上ったの。それがね、余程長く浸っていたと見えて、眼も当られないように腫れ上って、顔も何にも分りゃしない、手でも何でも触ればすぐ取れて終うの。気味の悪いったらありゃしない。ベッ、おゝ嫌だ」

おかみは顔をしかめた。

古井戸から上った糜爛した死体、それは三年前の話だったけれども、岸本は余り好い気持がしなかった。

「嫌ですね、それで女だったんですか」

「えゝ、そう」

「誰だか分ったんですか」

「いゝえ、分りゃしないの。それがね岸本さん、警察なんて随分ひどいものね。そんなむごたらしい死骸が二、三日もそのまま抛ってあったわよ。と云うのはね、何でもあの原が高輪の警察と品川の警察との境になっているんですって。それでね、手柄だったら奪い合いをするんだけれども、そんな嫌な事は塗すくり合って、どっちからも検視が下りないんですってさ。結局高輪の方で検視して葬ったんだそうだけれども、身許などまるで分らず了いさ。