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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

そんな事で行方不明なんて人が世間にザラにあるんだね」

「年はいくつ位だったんですか」

「見た所で若い人だと云う事は分ったけれども、少しも見当がつかなかったわ。お医者さんが二十二、三と鑑定したと新聞に出ていたよ」

もしやお貞の死体ではないかと乗気になって聞いて見たが、年が恰でちがうので岸本はがっかりした。

「私が見に行ってた時には」

お篠は思い出したように云った。

「支倉の旦那が丁度居てね」

「えっ、支倉さんが」

「そうなの、二人でね、見た所は若そうだが可哀想な事をしたものだって話合ったっけ」

「支倉さんも態見に来たのですか」

「さあ、態※(二の字点、1-2-22)だったか、通りがかりだったか、そんな事に覚えはないさ」

「兎に角、身投なんて嫌な事ですなあ」

余り支倉の事を問い過ぎて悟られてはならずと、岸本は態と話をはぐらかした。

「本当に嫌なこったよ」

おかみは顔をしかめたが、

「あゝ、大変だ、すっかり喋っちゃって夕方の支度をしなくっちゃ」

岸本は一人になって又せっせと仕事をしていると、主人が帰って来た。彼はちらりと岸本の仕事をしているのを覗くと、そのまゝ奥の居間に引ッ込んだ。