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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
それからペンを取って、尚も考え考え封筒の上にペンを動かした。
「本所区菊川町二十三番地大内写真館、うん之でよし」
意地の悪そうな笑みを洩らして書上った封筒を眺めていたが、やがて吸取紙で押取ってピリピリと二つに裂くと、クルクルと丸めてポンと足許の屑籠へ拠り込んだ。
彼は呼鈴を押した。
ミシ/\と岸本が上って来た。
「先生、何か御用ですか」
「うん、ちょっと現像をやろうと思うのだが、薬品は揃っているだろうな」
「はい、揃っています」
「それじゃ、君は少しこの辺を片付けて置いて呉れ給え」
「はっ、承知しました」
浅田は暗室に這入ると、直ぐに現像を初めようとはせず、光線を導き入れる赤色硝子の嵌った小窓から、そっと部屋の様子を覗っていた。
岸本はせっせと部屋を掃除していた。そのうちにふと屑籠に気がつくと、彼は屈んで中から丸められた封筒を取出した。彼ははっとしたようだったが、やがてジロッと暗室の方へ眼をやって、背中を小窓の方へ向けて、机の上を整頓するような風をして、そろ/\と封筒を拡げた。
岸本の相好はみる/\崩れた。彼は嬉しさを隠すことが出来ないで子供のように大きく眼を瞶った。