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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
外の手紙はみんな私に云いつけて出させるのですけれども、その返辞だけは御自身でお出しになるのですよ」
「畜生!」
お篠は呶鳴った。
「じゃ矢張り私を誑しているんだな」
折柄表通りに浅田の姿が見えたので、二人はあわてゝ下に降りた。
浅田は家の中に這入ると、そのまゝ無言で二階へトン/\と上った。
彼は注意深く部屋を一通り見廻した後、椅子にどっかと腰を下して、あーっと欠伸を一つしたが、ふと机の上を見て、
「おや」
と呟いた。
机の上はちゃんと自分が整頓して置いた通り、何一つ位置を変えないで、そのまゝにはなっているが、所謂第六感と云うか、何となく何者かゞ手を触れたような気がするのだ。
「はてね」
腕組をしたまゝ、鋭い眼で机の上を睨んでいたが、ふと吸取紙に眼がついた。気の故だか少し位置が、捩れているようだ。
彼は吸取紙を取上げて、頭の上の電燈に照して見た。
「しまった」
彼は軽く呟いて、頭を上げると唇を噛んで、じっと遠方を睨みながら、考え込んだ。
やがて彼は再び仔細に吸取紙を調べ出した。彼の口辺には微笑が現われて来た。彼は何を思ったか一枚の封筒を取出して、吸取紙と並べて机の上に置いた。