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ほうしんきょうじゅ

放心教授

森 於菟

「屍室斷想」時潮社、1935(昭和10)年3月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,647 字 · 10 页

青空文庫

留学中には旅行の都度チャンとプランをつくってゆく友人の尻についてまわったのでたいして失敗もしなかったが、ベルリンの郊外に住んでいたので大学に通うのにベルリン市の周囲をまわる東京の山手線のようなのを利用する。ある日いつも降りる駅を度忘れをしてベルリンのまわりを二まわりまわったことがあった。またある夏ドイツの北海のヘリゴランドという小島の研究所に行って魚をとっては解剖していたが、人の真似して海水浴に行こうとして島の小さい町で海水帽を買った。いろいろある中に麦藁帽の縁のひろいのが日よけによさそうだ。いろんなリボンがついてるが黒いのは男のだろうと思ってそれを買ってかねて用意の海水着と共に一着し意気揚々と海岸に出た。するとそこらにいる人が皆笑う。ことに娘達が笑う。私は内心はなはだおだやかでない。ベルリンでも日本人を見てヤップス(米国でいうジャップと同じ)などと嘲笑するものがあるがそれは多くは下層階級の無頼漢どもだ。ここでは相当の紳士淑女らしいのが皆見るような見ないような顔でニヤニヤしている。不愉快なのでそのままパンジオン(下宿)に帰ると老主婦が大きな腹をつきだし両手をつっぱって腰の所へ手をあてがった姿勢で皺だらけの顔の底にひっこんだ金壺眼をぐりぐりさせる。