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ほうろうさっかのぼうけん
放浪作家の冒険
西尾 正
「探偵春秋 第一巻第三号」春秋社、1936(昭和11)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,694 字 · 33 页
つまり、ああいう場所のああいう殺人事件は、手口が大っぴらであまりにだいたんであるがゆえにかえって人目にふれず、暗々裡にかずをかさねているのではないか、あるいはまた、当局はすでにかぎつけていて、記事さしとめをめいじているのではないか、という疑いだ。ところが自分がよわみをもっているだけ、どうもあとの場合のほうが可能性がありそうに思われ、いまごろはあそびにんや田舎もんに変装した何十人という刑事が、四ほう八ぽうに暗躍しているのではないかと思うと、じつにむじゅんしたはなしだが、自分が真犯人のような錯覚をおこして、きょうはのがれたがあしたは捕まるといったふうに、一種の強迫観念にせめられるじゃないか。この気持はおれとおなじい状態におかれたものでないとわからぬかもしれぬ。なあに、でるとこへでて逐一事実を陳述すればそうむちゃな結果になるとは思えぬ、とみずからなぐさめるのだが、どっこい、この世のなかにはいろいろな逆がおこなわれている、悪党が善人づらで通用するし、けちな野郎が大きなつらのできる世のなかだ、無辜の自分が真犯人にされちまうというくらいの逆は、かくべつめずらしいことではないかもしれぬ、とこう思うと、そこがそれ病気だね、無心で交番のまえがとおれない。