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ほうろうさっかのぼうけん
放浪作家の冒険
西尾 正
「探偵春秋 第一巻第三号」春秋社、1936(昭和11)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,694 字 · 33 页
「勝手にゆけっ」
と、前方へつきとばした。男は二三度こけつまろびつ、あたかもはなたれた兎のごとくまたたくまに暗闇のなかへ吸いこまれた。
それから急遽表通りへで、Q街の屋根裏にかえったのはもはや夜明けにちかく、ほのぼのと白まってゆく空にそろそろ花の都パリがうごきだしていた。途中二度ばかり密行の不審訊問にあったが、どうしてもその夜の事件にふれることができなかったというのは、おれ自身のシチュエエションが非常にきわどいので、へたに口をわればとんだ災難にあわぬともかからぬと思ったからだ。
さて、その翌日から、おれの新聞をみる眼が局限されてきた。「X娼家街売笑婦殺人事件」という大見出しが社会面のトップにとびでるのではないかと、まいにちの配達がまちどおしいくらいひそかに気づかっていたのだが、どうしたわけか一向に表ざたにならぬ。あんなどじな、しろうとのおれにすら隙見されるような仕事なのだから屍体の始末などもふてぎわで、おそらく発覚されなければフランスの警察制度のこけんにかかわるというわけだが、そうこうして、なんの発展もみずに半月ばかり日がたってしまった。するうちにこんな考えがうかんだ。