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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

三白草の花

十二月×日

ゆかいな朝だ、一人の男に打ち勝って私は意気ようようと、酒屋の二階に帰える。

たいさんが帰えっていた。畳の上で何か焼いた跡らしく、点々と焦げて、たいさんの茶色のマントが、散々に破られていた。

「庄野さんとこへ昨夜泊ったのよ。」

たいさんはニヤリと笑った。

私はもう捨てばちである。

たいさんは結婚するかも知れないと云う。うらやましくて仕様がない。

今は只沈黙っていたいと云う、淋しかったが、たいさんの顔は更生に輝いていた。

みじめな者は私一人じゃないか、私はぺしゃんこにくず折れた気持ちで、片づけて行くたい子さんの白い手を見ていた。

三白草の花

九月×日

今日も亦あの雲だ。

むくむくと湧き上る雲の流れを私は昼の蚊帳の中から眺めていた。

今日こそ十二社に歩いて行こう――そうしてお父さんやお母さんの様子を見てこなくちゃあ……私はお隣りの信玄袋に凭れている大学生に声を掛けた。

「新宿まで行くんですが、大丈夫でしょうかね。」

「まだ電車も自動車もありませんよ。」

「勿論歩いて行くんですよ。」

此青年は沈黙って無気味な雲を見ていた。

「貴方はいつまで野宿をなさるおつもりですか?」