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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

も一人私より一日早くはいったお君さんは脊の高い母性的な、気立のいゝ女だった。

廓の出口にある此店は、案外しっとり落ついていて、私は二人の女達ともじき仲よくなれた。

こんな処に働いている女達は、始めどんな意地悪るくコチコチに要心して、仲よくなってくれなくっても、一度何かのはずみでか、真心を見せると、他愛もなく、すぐまいってしまって、十年の知己のように、まるで姉妹以上になってしまう。

客が途絶えると、私達はよくかたつむりのようにまるくなった。

十一月×日

どんよりとした空。

君ちゃんとさしむかいで、じっとしていると、むかあしかいだ事のある、何か黄ろっぽい花の匂いがする。

夕方、電車通りの風呂から帰って来ると、いつも呑んだくれの大学生の水野さんが、初ちゃんに酒をつがして呑んでいた。

「あんたはとうと裸を見られたわよ。」

お初ちゃんがニタニタ笑いながら、鬢窓に櫛を入れている私の顔を鏡越しに見て、こう言った。

「あんたが風呂に行くとすぐ水野さんが来て、あんたの事聞いたから、風呂って云ったの……」

呑んだくれの大学生は、風のように細い手を振りながら、頭をトントン叩いていた。