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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

地図のある、赤いジュウタンの広い室に通されると、白と黒のコスチウム、異人の妻君って美しい、遠くで見るとなお美しい。さっき馬で出て行った男の子が鼻を鳴らしながら帰えって来た。

男の異人さんも出て来たが、大使ではなく、書記官だとかって事だ。夫婦共脊が高くてアッパクを感じる。

その白と黒のコスチウムをつけた夫人に、コック部屋を見せてもらう。コンクリートの箱の中に玉葱がゴロゴロしていて、七輪が二ツ置いてあった。此七輪で、女中が自分の食べるのだけ煮たきするのだと云う。まるで廃屋のような女中部屋、黒いよろい戸がおりていて、石鹸のような外国の臭いがする。

結局ようりょうを得ないで門を出る。ゴウソウな三年町の邸町を抜けて坂を降りると、吹き上げる十二月の風に、商店の赤い旗がヒラヒラ暮れ近かく瞳にしみた。

人種が違っては人情も判りかねる。どこか他を探して見様かしら。

電車に乗らないで濠ばたを歩いていると、国へ帰りたくなった。目当もないのにウロウロ東京で放浪したところで、結局どうにもならない。電車を見ていると死ぬる事を考える。

本郷の前の家へ行く。叔母さんつめたし。