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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

一直線に墜落した女よ! と云う最後のたよりを受取ってもう七年にもなる。あの男は、ピカソの画を論じ槐多の詩を愛していた。

これでもかッ! まだまだ、これでもかッ! まだまだ、私の頭をどやしつけている強い手の痛さを感じた。

どっかで三味線の音がする。私は呆然と座り、いつまでも口笛を吹いていた。

一月×日

さあ! 素手でなにもかもやりなおしだ。

市の職業紹介所の門を出ると、私は天満行きの電車に乗った。

紹介された先は毛布の問屋で、私は女学校卒業の女事務員、どんよりと走る街並を眺めながら、私は大阪も面白いなと思った。

誰も知らない土地で働く事もいゝじゃないか、枯れた柳の木が腰をもみながら、河筋にゆれている。

毛布問屋は案外大きい店だった。

奥行きの深い、間口の広いその店は、丁度貝のように暗くて、働いている七八人の店員達は病的に蒼い顔をして、急がしく立ち働いていた。

随分長い廊下だった。何もかにもピカピカと手入れの行きとゞいた、大阪人らしいこのみのこじんまりした座敷に私は始めて、老いた女主人と向きあった。

「東京から、どうしてこっちゃいお出でやしたん?」

出鱈目に原籍を東京にしてしまった私は、一寸どう云っていいかわからなかった。