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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

時々田端の駅を通過する電車や汽車の音が汐鳴りのように聞える丈で、山住いのような静かさだ。

つくづく一人が淋しくなった。

楊白花のように美しい男が欲しくなった。

本を伏せると、焦々した私は下に降りて行った。

「今頃どこへ!」下の叔母さんは裁縫の手を休めて私を見る。

「割引きです。」

「元気がいゝのね……。」

蛇の目の傘を拡げると、動坂の活動小屋に行った。

ヤングラジャ、私は割引きのヤングラジャに恋心を感じた。太鼓船の東洋的なオーケストラも雨の降る日だったので嬉しかった。

だが、所詮はどこへ行っても淋しい一人身。小屋が閉まると、私は又溝鼠のように塩たれて部屋へ帰った。

「誰かお客さんのようでしたが……。」

叔母さんの寝ぼけた声を脊に、疲れて上って来ると、吉田さんが、紙を円めながらポケットへ入れていた。

「おそく上って済みません。」

「いゝえ、私活動へ行って来たのよ。」

「あんまりおそいんで、置手紙をしてたとこなんです。」

別に話もない赤の他人なんだけど、吉田さんは私に甘えてこようとしている。鴨居につかえそうに脊の高い、吉田さんを見ていると、タジタジと圧されそうになる。