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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

屍室と墓地と病院と、淫売宿のようなカフェーに囲まれた、この太子堂の家もあきあきしてしまった。

「時に、明日はたけのこ飯にしないかね。」

「たけのこ盗みに行くか……。」

三人の男たちは路の向うの、竹籔を背にしている、床屋の二階の飯田さんをさそって、裏の丘へたけのこ盗みに出掛けて行った。

女達は街の灯を見たかったけれど、あきらめて、太子堂の縁日を歩いた。

竹籔の小路に出した露店のカンテラの灯が噴水の様に薫じていた。

六月×日

ほがらかな空なので、丘の上の絹のような緑を恋いして、久し振りに、貧しい女と男は散歩に出る話をした。

鍵を締めて、一足おくれて出ると、どっちへ行ったものか、男の蔭は見えない。

焦々して、陽照りのはげしい丘の路を行ったり来たりしたが、随分おかしな話である。

あざみの茎のように怒りたった男は、私の背をはげしく突くと閉ざした家へはしってしまった。

「オイ! 鍵を投げろッ!」

又か……私は泥棒猫のように、台所からはいると、男はいきなり、たわしや茶碗を私の胸に投げつける。

あ、この瓢軽な粗忽者を、そんなにも貴方は憎いと云うのか……私はしょんぼり井戸端に立って、蒼い雲を見た。