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ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页
「当分二人でみっしり働こうね。ほんとに元気を出して……。」
「雑色のお母さんのところへは参拾円も送ればいゝんだから。」
「私も少し位は原稿料がはいるんだから、沈黙って働けばいゝのね。」
雪の音かしら、窓に何かサヽヽヽと当っている。
「シクラメンって厭な匂いだ。」
時ちゃんは、枕元の紅いシクラメンの鉢をそっと押しやると、簪も櫛も抜いて、「さあ寝んねおしよ。」
暗い部屋の中で、花の匂いだけが、強く私達をなやませた。
一月×日
積る淡雪積ると見れば
消えてあとなき儚なさよ
柳なよかに揺れぬれど
春は心のかはたれに……
時ちゃんの唄声でふっと目を覚ますと、枕元に、白い素足が並んでいた。
「もう起きたの……。」
「雪が降ってるよ。」
起きると、湯もたぎって、窓外の板の上で、御飯もグツグツ白く吹きこぼれていた。
「炭もう来たの……。」
「下の叔母さんに借りたのよ。」
いつも台所をした事のない時ちゃんが、珍らしそうに、茶碗をふいていた。
久し振りに、猫の額程の茶ブ台の上で、幾年にもない長閑なお茶を呑む。
「やまと舘の人達や、当分誰にもところを知らさないでおきましょうね。」
時ちゃんはコックリをして、小さな火鉢に手をかざす。