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ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页
山本さんは涙ぐむと、火鉢の灰をかきならしていた。
たい子さんは幸福だなあ……私は別れて間もない男の事を思った、あんなに私をなぐっていたあの男に、この山本さんの純情が十分の一でもあったら……時ちゃんはスヤスヤいびきをかいている。
「では僕帰えりますから、明日の夕方にでも来るように云って下さいませんか。」
もう二時すぎである。青年はコトコト路を鳴らして帰えって行った。たい子さんは、あの人との子供の骨を転々持って歩いていたが、どうしたろう、折れた鏝が散乱している。
十二月×日
雨がざんざん降っている。
夕方時ちゃんと二人で風呂に行く。
帰えって髪をときつけていると、飯田さん来る。
私は袖のほころびを縫いながら、カフェーでおぼえた唄を フッとうたいたくなった。
あゝ厭になってしまう。
別れてまでノコノコ女のそばへ来る位なら飯田さんもおかしい人だなあ……。
「こんなに雨が降るのに行くの……。」
たい子さんは佗しそうに、ふところ手をして私達を見た。
浅草へ来た時は夕方だった。
ざんざ降りの中を一軒一軒、時ちゃんの住み込みよさそうな家をさがして、きまったのはカフェー世界と云う家だった。