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ほうろう
放浪
織田 作之助
「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,614 字 · 47 页
下寺町から生国魂神社への坂道は人通りもなく、登って行く高下駄の音、犬の遠吠え……そんな夜更けの町の寂しさに、ふと郷愁を感じ、兄よ、わりゃ死んだナ。振舞酒の酔いも手伝って、いきなり引き返えし、坂道を降りて道頓堀へ出ると、足は芝居裏の遊廓へ向いた。殆んど表戸を閉めている中に一軒だけ、遣手婆が軒先で居眠りしている家を見つけ、登席った。客商売に似合わぬ汚い部屋でぽつねんと待っていると、おゝけにと妓がはいって来た。
むせるような臭気が鼻をつくと、順平には、この妓がと、嘘のように思われた。しかし、本能的に女に拒まれるという怖れから、肩にさわるのも躊躇され、まご/\している内に、妓は眠って了った。いびきを聴いていると、美津子の傍でむなしく情けない想いをした日々のことが聯想された。
朝、丸亀へ帰る途々、叔父叔母に叱られるという気持で心が暗かったが、ふと丸亀から逐電しようと心を決めると、ほッとした。家へ帰り、どないしてたんや、家あけてという声をきゝ流して、あちこちで貰う祝儀をひそかに貯めて二百円ほどになっている金を取出し着物を着変えた。飛び出すんやぞ、二度と帰らへんのやぞという顔で叔父叔母や美津子をにらみつけたが、察してはくれなかったようだ。