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ほうろう

放浪

織田 作之助

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,399 字 · 47 页

青空文庫

さすが大阪の牛丼は真物の牛肉を使っていると思った。木下の屋台店で売っていた牛丼は、繊維が多く、色もどす赤い馬肉だった。食べながら、別府へ行けば千に一つ小鈴かオイチョカブの北田に会えるかも知れぬと思った。

天保山の大阪商船待合所で別府までの切符を買うと、八十銭残ったので、二十銭で餡パンを買って船に乗った。船の中で十五銭毛布代をとられて情ない気がしたが、食事が出た時は嬉しかった。餡パンで別府まで腹をもたす積りだった。小豆島沖合の霧で船足が遅れて、別府湾にはいったのはもう夜だった。山の麓の灯が次第に迫って来て、突堤でモリナガキャラメルのネオンサインが点滅した。

船が横づけになり、桟橋にぱっと灯がつくと、あっ! 順平の眼に思わず涙がにじんだ。旅館の法被を羽織り提灯をもったオイチョカブの北田が、例の凄みを帯びた眼でじっとこちらをにらんでいたのだ。兄貴! 兄貴! とわめきながら船を降りた。北田は暫くあっ気にとられて物も云えなかったが、順平が、兄貴わいが別府へ来るのんよう知ったナというと、阿呆んだらめ、わいはお前らを出迎えに来たんやないぞ、客を引きに来たんやと四辺を憚かる小声で、それでもさすがに鋭くいった。