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もじか
文字禍
「文学界」(「古譚」の題で)1942(昭和17)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,454 字 · 13 页
何しろ文字通り煙になったこととて、どれが正しいのか一向見当がつかない。近々、大王はそれらの中の一つを選んで、自分にそれを記録するよう命じたもうであろう。これはほんの一例だが、歴史とはこれでいいのであろうか。
賢明な老博士が賢明な沈黙を守っているのを見て、若い歴史家は、次のような形に問を変えた。歴史とは、昔、在った事柄をいうのであろうか? それとも、粘土板の文字をいうのであろうか?
獅子狩と、獅子狩の浮彫とを混同しているような所がこの問の中にある。博士はそれを感じたが、はっきり口で言えないので、次のように答えた。歴史とは、昔在った事柄で、かつ粘土板に誌されたものである。この二つは同じことではないか。
書洩らしは? と歴史家が聞く。
書洩らし? 冗談ではない、書かれなかった事は、無かった事じゃ。芽の出ぬ種子は、結局初めから無かったのじゃわい。歴史とはな、この粘土板のことじゃ。
若い歴史家は情なさそうな顔をして、指し示された瓦を見た。それはこの国最大の歴史家ナブ・シャリム・シュヌ誌す所のサルゴン王ハルディア征討行の一枚である。話しながら博士の吐き棄てた柘榴の種子がその表面に汚らしくくっついている。