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しんまんようものがたり
新万葉物語
伊藤 左千夫
「文章世界 第四卷第二號」1909(明治42)年2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,832 字 · 10 页
こういって二人は、つくづく心の中で神様に感謝するらしく涙を拭いた。
どっどっと馬の足音がすると思うと、ふッふッと強い馬の鼻息が聞え、やがて舌金を噛む音が聞えて、馬は庭まで這入ったけはい。お小夜はすぐ庭へ出て父の荷卸しに手伝ってやる。月が冴えて昼間のように明るい。
「こんなに晩くなってお父さん寒かったべい」
「ああに寒かあなかった。鰯網が出たからね。それを待っててこんなにおそくなった。そらその菰に三升ばかり背黒鰯があらあ。みんなは、はあ飯くっちゃっぺいなあ」
「ああ、たべっちゃった。お父さんにだけ少し拵えてあげますべい」
話す間もお小夜は油断なく手早に事を運ぶ。馬盥を庭の隅へ出して湯を汲めば父は締糟を庭場へ入れ、荷鞍を片づけ、薄着になって馬の裾湯にかかった。
いかにも寒々とした月夜の庭に、馬は静かに立っている。人は両肌脱いでしいしい口拍子を取って馬を洗う。湯気は馬の背以上にも立って、人も馬も湯気にぼかされてほとんどそのまま昼のようだ。園部の家では夜番の拍子木が二度目を廻っている。
お小夜は食事あたたかく父に満足させて後、病母の臥床をも見舞い、それから再び庭場におりて米を搗き始めた。