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にいづまのしゅき
新妻の手記
豊島 与志雄
「再建評価」1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,807 字 · 22 页
翌朝まで、その気分は残っていた。母はまだ怒ってるようだった。
ところがその午後、母は私に言った。
「わたしは、いろいろ考えましたがね、やはり隠居することにきめましたよ。」私の方でびっくりした。
「あら、隠居なんて、おかしいじゃございませんか。」
「いいえ、意地にもしてみせます。わたしはただ、この家を護り通すために、長年苦労してきました。家を護り通す、そのことだけを心掛けて族行もしませんでした。けれど、もう大丈夫でしょう。家の中の仕事がなくなるのは、何より淋しいことですが、ほかに楽しみを見つけましょう。あなたがしっかりやっていって下さいよ。それから、文学の方も、忘れずに勉強して下さいよ。」
「お母さま、急にそんなこと言い出しなすって、どうなすったの。今迄通りで宜しいじゃございませんか。」
「ええ、今迄通りで、別に変ったことはしませんよ。」
母はまじまじと私の顔を見て、淋しそうな頬笑みを浮べた。
その時から、私にも母の気持ちが分ってきたようだ。母の言葉の家を、家庭の意味に私は理解する。結婚した女にとって、家庭は一城一廓と同じもので、主婦はその一城一廓の主人だと、誰かの文句にあったように覚えている。