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しんねんのあいさつ

新年の挨拶

山川 方夫

「新刊ニュース 第一三巻第二二号(一月一日・一五日合併号)」1963(昭和38)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,866 字 · 6 页

青空文庫

……」女は、また笑った。

彼女は呆然として、受話器を夫の手に戻した。その電話も、きっかり三十分間つづいた。

「まったくへんな女さ」と、夫はいった。「あれから、誓って一度も逢っていない。それなのに自分はこの一年、こんな気持で送った、こんなことがあった、春には犬のペスが死んだのよ、だなんて、俺とはまるで無関係なことばかりを、一人でしゃべりちらしているんだ。もちろん、そんな名の犬がいたことも知らないこの俺にだよ。……そして最後に、じゃ、今年もしっかりね、なんていう。ただそれだけなんだからな。わけがわからないよ」

もともと、夫は律義すぎるほど正直な男で、そういう自分にたいするプライドがひどく強い性質だった。彼女は信じた。夫は悪い夫ではなく、家庭は平凡だったがまずまず幸福で、そのころはもう最初の子も生れていた。

「俺、ほんとは彼女、まだ独身じゃないかって思うな。いや、きっとそうだ」

「どうして?」

夫は年始まわりのための服を着、玄関に降り立ちながらいった。

「だって、つまり彼女は孤独なんだ。相手がほしいんだよ。そういう欲求不満のあらわれがあの電話なんだ。……結婚さえすりゃ、きっと俺もお役ごめんになる。