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しんねんのあいさつ

新年の挨拶

山川 方夫

「新刊ニュース 第一三巻第二二号(一月一日・一五日合併号)」1963(昭和38)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,866 字 · 6 页

青空文庫

夫が受話器を置いたとき、彼女は腕時計を見た。

「ちょうど三十分間ね、今年も」

元旦の昼ちかい光が、ガラス戸ごしに部屋に流れている。夫は、しばらくは口をきかなかった。

「恒例の、新年のご挨拶ね?」

「うん。……あいつさ」

「今年はどんな話だったの?」

「子供が、学校に上るってさ。……だけど、それがいったい俺とどんな関係があるっていうんだ? 毎年、判で押したように元旦の朝、この電話だ。勝手に自分のことばかりペラペラしゃべりまくりやがる。……迷惑だよ」

「あら、けっこう楽しそうな顔してたわ」

「冗談じゃない。こうしつっこいと、ウンザリして、だんだん怖くなってきちゃう。たぶん、相手はまともな精神の持主じゃないよ。たった一回、いっしょに映画を見てお茶を飲んだ、それだけのことで、こんなに……」

夫と話しながら、彼女はふと、去年の元日の朝も、まったくこれと同じ会話を交したのを思い出した。いや、去年だけではない。たしか一昨年も、その前の年も……。

年に一度、きまって元日のお昼ちかく、夫に電話をかけてくるその女が誰かは、もうとうに彼女は知ってしまっていた。それは夫がまだ大学を出たてのころ、ただ一回だけお見合いをさせられたという、その相手の女性だった。