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しんねんざっそ
新年雑俎
寺田 寅彦
「一橋新聞」1935(昭和10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,034 字 · 6 页
数年前までは正月元旦か二日に、近い親類だけは年賀に廻ることにしていた。そうして出たついでに近所合壁の家だけは玄関まで侵入して名刺受けにこっそり名刺を入れておいてから一遍奥の方を向いて御辞儀をすることにしていたのであるが、いつか元旦か二日かが大変に寒くて、おしまいには雪になったことがあって、その時に風邪を引いて持病の胃に障害を起したような機会から、とうとう思い切って年賀廻りを廃してしまった。すると、その翌年は正月がたいそう暖かくて廻礼廃止理由の成立が少々怪しくなったようであった。
年賀に行くと大抵応接間か客座敷に通されるのであるが、そうした部屋は先客がない限り全く火の気がなくて永いこと冷却されていた歴史をもった部屋である。這入って見廻しただけで既に胴ぶるいの出そうな冷たさをもった部屋である。置時計、銅像、懸物、活花、ことごとくが寒々として見えるから妙である。
瓦斯ストーヴでもあると助かるが、さもなくて、大分しばらく待たされてから、やっと大きな火鉢の真中に小さな火種を入れて持参されたのでは、火のおこるまでに骨の髄まで凍ってしまいそうな気がする。またストーヴがあるにはあっても、その部屋の容量を考慮に入れないで瓦斯消費量のみを考慮に入れたようなストーヴだと効果はやはり同様である。