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しんしゅんぐうご

新春偶語

寺田 寅彦

「都新聞」1935(昭和10)年1月1日、「吉村冬彦」署名で。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,551 字 · 6 页

青空文庫

凶作の原因となる気温異常には他にも色々な原因はあるとしても一つの因子としてこれと東北沿海の海水の温度異常との間に若干の相関があるらしいということは、我邦の学者の間ではもう少なくも二十年も前から問題となっていたことである。ただこの問題の決定に必要な十分な海洋観測の材料がないために問題はそのままに問題として残され、やがていつとなく忘れられていた。それが今年の凶作で急に焼木杭に火がついた形である。もしも二十年前に時の政府が奮発して若干の設備を施しそうして今日まで根気よく観測を続けて来ていたのであったら、今頃までにはもうどうにか曲りなりにでも解決がついていたのではないかと想像される。

敢えて農作関係ばかりとは限らず、系統的な海洋観測が我邦のような海国にとっては軍事上からも水産事業のためにも非常に必要であるということは、実に分りきったことであるが、この分り切ったことがどういう訳か昔の日本の政府の大官には永い間どうしても分らなかったのである。故人北原多作氏のごとき少数な篤学の官吏の終生の努力と熱心によってようやく水産に聯関した海洋調査がやや系統的に行われるようになりはしたが、自分の知る限りでは時々の政府の科学的理解のない官僚の気まぐれなその日その日の御都合による朝令暮改の嵐にこの調査の系統が吹き乱される憂いが多分