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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
この年、夏の初めに起った「一挙美濃入り」の軍議にも、始終、彼はだまって末席にいた。
「そちは如何に思うか」
と、訊かれた時、初めて、
「まだ、機は熟さないかと、思われます」
と、答えた。
非常に信長の意にそまない返辞だった。信長は咎めるように、
「鵜沼の虎を用いて、西美濃の三人衆だに降してしまえば、美濃は、居ながらにも自滅するように申したのは、そちではないか。なぜ、まだ時が早いというか」
「そうは参りませぬ。美濃は、おそれながら御当家の何十倍も富強です」
「前には、人材のかどを申し、こんどは富強をあげて云い恐れおる。そうしては、いつの日か、美濃攻めをやり果せようか」
信長はもう彼にものを問わなかった。そして軍議は、すすめられた。
驚くべき大軍が、小牧を発し、洲股を陣地として、美濃へ向けられたのは夏だった。
河を越えて、敵地へはいっての戦いは、一月の余にわたった。その間、たくさんな戦傷者が、後方へ送り返された。いつまでも、味方の勝報はなかった。
戦いつかれた軍は、ただまっ黒になって、将士みな口をむすんだまま憂暗な顔をもって、小牧山へ帰って来た。
「どうだった? 戦いは」