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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
大義
大義
信長に身を寄せた漂泊の将軍家義昭は、その後、岐阜の城下西ノ店の立正寺を宿所と定められて、一行はそこに起き臥ししていた。
見得坊で、小心で、権式ばかり高く持ちたがりながら、庶民の中に生々と動きかけている時流にはまだ醒めない足利家の君臣は、すこし境遇が落着くと、すぐ貴族臭をあらわして、
「喰い物がまずい」
とか、
「夜の具がお粗末すぎる」
とか、
「かような狭き寺門の内では、仮の御宿所とはいえ、公方様の御威厳にもかかわる」
などと、いろいろな不自由や不足をならべ出して、信長の側衆へ、
「もっと、御待遇を改めていただきたい。さし当って、新将軍のお館なども、どこか景勝の地を選んで御造営にかかってもらいたいが」
と、申し入れた。
信長は、その要求を聞くと、彼らの根性を憐れんだ。早速、義昭の家臣らを招いて告げた。
「将軍家のお住居が手狭であるから、新館造営にかかって欲しいとのお望みだそうであるが……」
「されば、唯今の宿所では、御不自由も多く、将軍家のお住居としても、あまりに外見が貧しゅうござれば」
「はて、さて」
信長は蔑むように、それに答えた。
「――卿らは、何と悠長なお考えでおられるのか。