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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

身を斜めに、坐りくずして、長々と足腰を伸ばした。

中村から送り届けてよこしたという、母が手搗の餅も喰べた。寧子が心をこめた種々の料理も喰べた。屠蘇も酌んだ。

「めでたい」

それで彼は寝てしまった。大満足の寝顔であった。

二、三日は年賀の訪客が来る。答礼に出かける。またたく間に、松の内もはや過ぎようとする。

六日の朝だ。彼は早朝から出仕した。正装だが草鞋、脛穿という支度である。持足軽五十名ほど引きつれて熱田まで出向いたのである。

熱田の町の清潔さ。その朝は街道筋も塵一つない。小溝の水までが美しく底を見せていた。

宿駅の入口から熱田の宮のあたりにかけ、沿道には織田家の人数が整列して待ちもうけていた。

やがて今日。

清洲城へ参向あるという三河岡崎の松平元康を出迎えるためにであった。

信長からのお迎えとして、ここまで人数をひいて出向いていた名代役は、林佐渡、滝川一益、菅谷九郎右衛門の三重臣であった。

藤吉郎も、そのうちの何の組かにはいっていた。けれど、彼の人数の如きは、遥か下の方にあって、町屋の軒端に佇み、主君の貴賓が通る往来の馬糞を掃き取らせたり、野良犬を追ったり、辻の戒めに気を配ったりしているに過ぎないのである。