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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
山中人
凡物とはあべこべな非凡であった。
それも偽者でないことだ。非凡、恬淡の士は、何も天下とまでいわなくても、織田家にだけでも尠なくないが、すぐ剥げやすい君子ばかりだから、使うとなっては、その使う道に困る。
山中人
そう高い山ではない。一名を岡ヶ鼻というのでもおよそ知れよう。
その栗原山は、南宮山のつづきで、親に倚り添う子のような形をしていた。
頂の近くまで来て、
「ああ、美しい」
詩人でない藤吉郎も、思わず恍惚として、落日の荘厳に打たれていた。――つるべ落しという秋の陽が、もう暮れかけて来たのである。
――余談にわたるが。
後年、関ヶ原の役の折には、この南宮山には毛利の軍勢が陣し、栗原山には長束正家、山下には長曾我部盛親と、いずれも西軍方が布陣して、家康の東軍を窺ったものであったが、一たび石田三成の主隊の潰乱から、いちどに鬨を揚げて敗走している。豊家にとって恨み多き古戦場の一つになっている。
今。若い藤吉郎は、そこに立っているけれど、自分の死後、ここに豊家の瓦解を早めた関ヶ原役の陣が布かれようなどと、神ならぬ身、どうして思ってもみよう。
青野ヶ原の彼方、美濃近江の山々の陰へと――荘美な夕雲の彩だけを残して、刻々、沈んでゆく落日の大悲光こそ、さながら、やがて大坂城に、雄図の多恨と身辺の情恨を遺して、人寿の命ずるところ