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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
「小熊ッ。小熊ッ」
折もよくその時。
たしかに半兵衛重治と覚しき声が童子を呼びたてていた。
童子は、その声に、びりっとした身ごなしで、
「――はいッ」
藤吉郎を置き捨てて、厨から奥へ駈けこんで行ってしまった。
なかなか戻って来なかった。そのうちに竃の上の大鍋から焦げくさい匂いが漂いだした。
他人の喰べる物とは思われず、藤吉郎はあわてて蓋の上の杓子をつかみ、大鍋の底をかきまわした。干栗や乾菜などが交じっている玄米粥であった。貧乏性とよく人に笑われたりするが、彼は貧農の家に生れたので、米つぶを見ると、母の汗を見るごとく、おろそかに思えなかった。侍になった今でも、茶碗の飯に向うたび、中村の母が思い出された。
「どうしたのだ、あの童子は。……焦げる、焦げる。こいつはいかん」
有り合う雑巾を取って、焼けている大鍋のつるを掴んで持ち上げた。そして竃のわきへ下ろしかけた時である。火の中の竹のふしでも刎ねたように――ずどんッ……と鉄砲の音が壁土をゆさぶった。
音に驚いて、竃小屋の暗い隅から、栗鼠やら鼬やらはしこい獣の影が、もんどり打って外へ逃げた。――が、藤吉郎は、大鍋をのぞいたまま、及び腰になって粥の底をなおかきまわしていた。