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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

見て参る」

藤吉郎は、麻の中を、麻のざわざわ騒がぬ程に、そっと這って行った。

小屋の中が見えた。ただの土民の家でしかない。ひどい茅屋である。

じっと、麻畑から窺うと、うす暗い燈火の中に、二つの人影が見える。

ひとりは老いたる母とみえ、莚のうえに平たくなって寝ていた。また、も一人はその子とみえて、老母の腰を揉んでいるのだった。

「…………」

藤吉郎は、鎧や、太刀に固めている身もわすれて、息もせず見惚れていた。

老母の髪はもう白く、子は逞ましいが、まだ十六、七歳にしか見えない。

「…………」

彼は、その母と子が、他人の姿とは思われなかった。突然、中村のわが母と、自分の少年の頃とを、見せられた心地がしていた。

「……おや?」

母の腰を揉んでいた若者は、急に鋭い目をしていった。

「おっ母さん、ちょっと待って下さいよ。……何だか変だ」

「なんじゃ、茂助」

と、老母も身を起した。

「急に、虫の音が、はたと啼き止みましたが」

「また、物置へかかりに来た獣じゃろ」

「いいえ」

強くかぶりを振って、

「獣ならば、灯影のさしているうちは寄りつきません」

ずかずかと、縁ばたまで、出て来たと思うと、いつ持ったか、若者の手には山刀が抱えられていた。