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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
で、初めは。
その姿を見つけた稲葉山城の兵たちも、味方とばかり思って、附近の薪倉だの、籾蔵などの棟の下で、屯しながら、朝の兵糧を喰って、雑談などしていた。
連日の戦とはいっても、それはこの広い城郭にあっては、大手の正面だけのことで、ここの搦手といったら、ほとんど、閑古鳥や昼時鳥の声さえするほど寂とした天嶮だった。――どうかすると、遠く大手の七曲り口や井之口坂の方で、バチバチ小銃の音が聞えて来たりすることはあるが、搦手を守備しているわずかな兵は、
(やっとるな)
ぐらいなもので、飽くまで、ここらは戦争圏外と心得ていた。
兵糧をつかいながら、藤吉郎たちの影を眺めていた斎藤家の兵は、それでもやがてふと、不審そうな眼を向け始めた。
「おい。何だろ」
「あれへ来た衆か」
「むむ。……変にうろうろしておるじゃないか。あれ、柵際の番所を覗いておるぞ」
「お表から誰方か見廻りに来られたのだろう」
「誰方だろう」
「さ? ……平時とちがって物の具をつけると分らなくなる」
「オヤ。……一人が竃部屋から燃えさしの薪を持って行ったぞ。何をなさるつもりだろう」
箸を持ったまま、見ていると、火のついた薪を持って走った一人は、薪倉の中へはいって山と積んであるそこの柴へ火を放け始めた。