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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
翌日は、彼の母が、洲股に着く日であった。藤吉郎は従者を連れて、城外一里余の柾木村の端れまで、母の駕籠を迎えに出ていた。
村端れの民家に駒を繋いで、藤吉郎主従は、やがて着くはずの老母の駕籠を待っていた。
壁と屋根ばかりな茅屋へ、領主が休息したので、村民は、ひどく恐縮して、あわてて床几や蓆を持ち出して供えるやら、村長の娘が盛装して接待するやら、時ならぬ騒ぎだった。
晩秋の空は碧い。
民家の籬には、菊がにおい、銀杏の梢には、鵙が高啼いていた。
「中村を思い出すなあ」
藤吉郎は、側にいる家来へいった。何につけても、彼は郷土を忘れていない。
そのうちに、村の腕白や洟たらしが、蜂の子みたいに集まって来た。木蔭や藪の中から覗いて、
「殿さまだよ、あの人」
「違うよ、こっちの人だよ」
「立派だなあ」
「いい馬だなあ」
初めは畏れて遠くから囁いていたが、そのうちに、そこらを駈け廻ったり、何か、遊戯を始めて、わいわい騒ぎ出した。
村長の紋付を着た老人が、
「これッ」
と、呶鳴りつけて、
「御領主さまの前で、わいら、なんというこッちゃ。あッちへ行きおれッ。行きおらぬと、棒をくらわすぞ」