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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
「いかがでしたか」
「うん。……なるほど、あれくらいな侍はめったにはなかろう。時服、黄金など与えて、鄭重に、領外へ送り出すがよい」
「は。……が、何か、御意に召さぬかどでもございましたか」
「ムム。英雄にも、真の英雄と梟雄とがある。梟雄に学才などあれば、かえって、自身を破滅し、主家を毒そう。――人相などはそう信じられぬかも知れぬが、あの侍の頂骨の突出しているのが何となく気にくわぬ。沈着、明眸、ことば静かに話してなどいると、ひき込まれるような魅力があり、真に惚々する侍だが、わしはむしろ中国武士の鈍骨を愛する。鈍骨武士のなかに置いたら群鶏一鶴ともいえるほど目立つ侍だろうが、それゆえに、敢えてわしは彼を忌む」
そういったそうである。
元就の評は、余りに、後年の光秀の運命を予言して、的中しすぎているから、多少、後人が尾ひれを加えて伝えたものであろうが、とにかく、毛利家では彼を抱えなかった。
芸州を去った光秀は、肥前肥後の山野を跋渉して、大友家の領内をも視たろう。海外の天地も、海を隔てて想像したろう。海路、四国へも出、長曾我部氏の兵法も窺ったろう。――そして再び越前の貧屋へ帰ってみると、糟糠の妻は留守のまに病死し、従兄弟の光春も、他家へ流寓し、赤貧は以前のままな赤貧であった。