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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
――それから数日の後である。将軍義昭の宿舎となっている寺院の裏山で、光秀は藤孝と落ち合って、彼の手から、信長へ宛てた将軍家の親書を受け取った。
光秀は、その夜、その足ですぐ一乗谷の城下から旅へ去った。勿論、邸も家人も捨てて、二度とこの地へは帰らないつもりであった。
朝倉家では、翌日、
「光秀、失踪」
と、騒ぎだした。
追討ちを向けたが、もう領内には見えなかったのである。
その前から、将軍義昭の扈従細川藤孝が、二、三度、彼の邸を訪れたことなどもあると聞えたので、太守朝倉義景は、
「さては、光秀を使嗾して、他国へ使いさせたにちがいない」
と、暗に、将軍義昭を責めて、これを領外へ趁いたてた。
藤孝は、かねてこうなることは、察していたので、むしろよい機と、越前から近江へ越え、浅井長政の小谷城へ一行と共に身を寄せて、光秀からの吉報を待っていた。
――こうして、光秀は、岐阜の城下へはいって来たわけだった。将軍義昭の親書をふところに、途中幾たびとなく生命の危険にも曝されたが、今――ようやくその目的の半ばを達して、森可成の私邸に、その使命と抱負を、主の可成としめやかに対座し、つぶさに語って、信長へ取次を乞うまでの夜に辿り着いたのであった。