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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
その後、蘭丸も、父の可成から光秀の為人を聞いたとみえて、初めてのようではなくなった。殿中の侍たちの中でも、尊敬する侍の一人として、光秀へ接するようになって来た。
主君といい、君側といい、出入する諸将といい、みな若々しく、なにか、希望にはちきれているのがわかる。光秀はひそかに、
「かくてこそ」
と、うなずいた。
そして、朝倉家を思い、遠くは亡家斎藤時代の、美濃を思いあわせて、
「こんどこそ、死を捧げても惜しくない御主君に出会った」
と、機縁に感謝していた。
明け暮、居心地のよい奉公だった。光秀は、一日ごとに、織田の家臣として、奉公の日が重なってゆくのが楽しみだった。家中の者とも、たいがい顔も見知り合い、新参として特に視る者もいつかなくなった。
明けて、永禄十年。
伊勢からの早打ちがつづいた。
それは、二月下旬。
「光秀。――桑名の滝川一益より、頻々、援軍の催促である。そちも、出向いて、ひと手勲いたして来い」
彼は召されて、信長からそういう恩命をうけた。
――恩命。
まったく、随身してまだ一年と経たない彼に、伊勢陣に参加せよというのは、特別な恩命であった。