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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「織田家のお使者。殿が会おうと仰っしゃる。お乗りなさい」

と、下から云った。

藤吉郎は、駒と郎党一人を、そこに残し、ただ一人、それへ乗った。

城内の通路は、左右、槍ぶすまであった。餓死しても守りきると覚悟している城内の将兵だけに、一人の藤吉郎を見ても、その眼は殺気立っていた。

櫓の下辺りに、城主山路弾正は床几をおいて待っていた。

藤吉郎は、敵の主将を、初めて間近かに見たが、会うとすぐ、

「正直な人物らしい」

と、好感を持った。

山路弾正も、悪びれぬ彼の態度に、案外、好意のある面を示していた。――お互いが戦場というものをおいて、対峙すれば、夜叉ともなり鬼神ともなるが、人間として、肌近く会うとなると、そんな眦をつりあげていられないのみか、かえって非常な親しみさえ覚えるものだった。

英雄英雄を知る――という瞬間の感能も勿論その中に働いていた。

「最前は、無礼なことを申しあげたが、おゆるしねがいたい」

挨拶の後で、藤吉郎がいうと、弾正は、武人肌というのか、至極あっさりと、

「いや、無礼はお互いだ。こっちで笑ったから、お身も笑ったのであろう。単身、敵の城下へ来て、笑えないものだ。