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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「なるほど。――では改めて問うが、そちはそれ程な成算をもちながら、なぜ洲股の評議のあった当初に、進んでその経策を述べ、自身大役をひきうけて出なかったか」

「いや、私とても、まッ先に洲股へ赴いたら、柴田様や佐久間様と同じように、辛き目にあわされておりましょう。武略にかけては所詮あの方々に及ぶべき私ではございません。……それに」

彼が、ことばの息をついだ機に、信長はやや斜めに胸を反らし、何か感じ入った態をした。――それは、自分を偉く見せようとか、得意気に調子づくとかいう、誰にもあり勝ちな飾り気の全く見えない――余りにも正直すぎるくらいな藤吉郎の淡々たる舌の音に、妙味というか、呆れたというか、とにかく信長の心でもちょっと推し量り切れないものが、信長の顔を包んでしまったように見えた。

(この男、油断ができない)

と、信長がひそかに胸でつぶやいている間に、藤吉郎はもう至って虚飾も云い廻しも知らないような言葉で、

「――ですから手前は、実を申せば、わざと御評議の当初には、さし控えておりましたわけです。……いや、ちと前後しましたが、わたくし如き末輩がまた、柴田、佐久間様などをさし置いて、第一に洲股築城の大役など拝して赴いたとしたら、家中の方々も、殿の眼鑑とばかりは申しません。