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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
――見まわせばまわりには、十河一族の三好方が、長柄、素槍を立てならべ、また、縁には武将たちが詰めあい、正面には、大将の讃岐守存保が坐して、すべての眼が、自分ひとつに集まっていた。
「宗易。昨夜は、茶事をすまして帰ったか」
と、存保はやがて、口を開いた。宗易が、それに対して、礼をのべると、存保はすぐ、
「その折、いかなる話をしたか。客は誰と誰であったか」
と、詰問しはじめた。
きのうの自分と、きょうの自分と――宗易はわれながら別人のように思えた。きのうの身はなお、堺の町の運命を案じると、死にきれない焦躁を覚えた。
きょうの彼は、そうでなかった。もう心にかかるものはない。死に徹しているここちがする。
(いつでも……)――と。
笑嶺和尚に導かれた禅の味境のありがたさを今感じる。また、日頃の茶がこんなところにも役立っていることにも気づいて感謝の念がわく。
さて。彼は答えた。
「益なき御詮議は、無用になされませ。なぜならば、いずれにしても、やがて織田殿の軍勢はこれに参ります。いかに抵抗してみたところで、三好方のお力で、支えきれる兵馬ではありません。あのお方の軍勢は時の力であり、こなたの濠や防塁は、いたずらに、旧い殻を固守する時勢に盲目な反抗いにすぎませんから――」