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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
信長と家康が着京の日、京都守備の任にある木下藤吉郎は、大津までそれを迎えに出た。
「これは、藤吉郎秀吉と申し、清洲以来の家臣でござる」
信長が家康へひきあわせると、
「いや、疾くから存じています。初めて、この方が清洲へ伺った折、大玄関へ迎えに立たれた諸士の中におられた。あれはもう桶狭間の御合戦の翌々年、だいぶ前になりましたな」
と、家康は、しげしげ藤吉郎をながめて笑う。藤吉郎は、その記憶力のよいのに驚いた。
家康はことし二十九。主君信長は三十七歳。――そして自分は、三十五になる。まさに十年まえのことだと思う。
京都に落着くと、信長は第一に、改修中の御所の工事を督励に行った。
「来春までには、内裏にいたるまで、悉皆、落成の予定にござります」
と、朝山日乗、島田弥右衛門の両奉行は、案内に立って陳べた。
「費えを惜しむな。久しい御荒廃の後じゃ」
信長がいうのを、そばで聞いていた家康が、
「かくも、未曾有な御奉公を事実の上にあらわし得たあなたは、まことに、うらやましいお立場である」
と、いった。
信長は、謙遜せず、
「そうです」
と、自分でも認めるようにうなずいた。